クラウド化する世界

結構読みごたえがあり、おもしろかった。いまいち各論での結論がつかみきれないもどかしさがあったが、読み手の問題な気もする。
ところで、この本の邦題は誤解を生むと思う。
英文の題は「The Big Switch」であり、副題も「Rewiring the World, from Edison to Google」であり、ましてや「世界はクラウドコンピューティングにスイッチする!」といった楽観的でかるーい話でもなく、クラウドうんぬんということよりも世界や人類や生命がどのように劇的な変化をしようとしているのかを述べている本である。
クラウドというのはあくまでも概念論での話であり、出版(翔泳社)側の売れそうな文句で作ったタイトルだろう。それが本書の本質を曇らせていて残念でならない。
本書のすごみは「ユーティリティ化、コモディティ化していく対象が人間そのものになる」ということを実証を含めて非常に説得力のある論説で展開している点だと思う。
エジソンの電気が生み出した「ユーティリティ化」が作り出した世界から始まり、コンピューティングがいかにユーティリティ化してきているのか、アマゾン、グーグルがいったい今何を実現しようとしているのか、技術とは善意も悪意もなく突き進み、待ちかまえる未来をどのように受け止めるのか。
といった感じで展開していく。
各人間の知能、知識自体がコンピュータに接続され、そのソースが巨大な支配者の利益を生み出していく世界。そしてそれとは気づかずに、そしてその利便性ゆえに甘んじて搾取を受ける状態に陥る。
といった結論が見えてくる。うーん、マトリックス


個人的には、ITという業界にいる以上、ジレンマを感じる。
未来を予見もせずに今の技術を使うことに「甘んじている」ような気がする。
自ら、向かう方向も作れずに、ただただその渦の中で彷徨しているような気がする。
まだ、「何をすべきか」を見いだせない。
本書が悲観的すぎるという意見もあるだろうが、私はそうは思わない。筆者は来るべき未来への覚悟を問うているように思う。テクノロジーがどう使われるのか、どう使うのか。


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